アライグマ説は――これは仮説というよりも突拍子のない憶測に近いが――この点が問題になるだけではなく、我が国に野生のアライグマはいないという問題もある。『魔王の足跡』(マーオン・ベロウ)pp.166
さいたま市に引っ越してきてから、丸一年。遂に図書館デビューをしました。
世界探偵小説全集が完璧に揃っているので、思わず借りてしまった『魔王の足跡』、本日読了です。もう一冊借りたのは、『びっくり館の殺人』(綾辻行人)ですけれど――貸出期間中に読めるかなぁ。乞うご期待!
さて、久しぶりに国書刊行会の
世界探偵小説全集から『魔王の足跡』です。この本、『本格ミステリベスト10』にて堂々の1位を獲得した作品でもあり、読みたいと思っておりました。
あらすじにもあるように、怪奇趣味満載で、しかも不可能犯罪。今回は、雪につけられた蹄の足跡(魔王の足跡)の先に、首つり死体。今となってはオーソドックスな雪密室ものですが、単純な雪密室ものではなく、怪奇趣味を織り交ぜているため、面白さはアップ。
しかも随所に現れるのが、
バカミスっぽさ。
意図的に入れているのだと思うけれど、地の文の真面目な語り口とは別の色々な人が口に出す奇怪な意見にどうも笑ってしまいました。その一つが、足跡の犯人はアライグマ説。
「ブーマーのことじゃないといいんですが」グレゴリーが当てこすった。「二本足で立ったブーマーが屋根や塀の上を歩き回って、人の頭を蹴飛ばしたあと姿を消した、なんて考えてらっしゃるんじゃないでしょうね」『魔王の足跡』(
マーロン・ベロウ)pp.260
そして、犯人にされそうになるロバさん。でもね、そんなバカばっかりじゃないのが、物語を引き締めていたりします。不可能犯罪に対する推測が、“ありえない”推理を展開する一方。悪魔の仕業だとする怪奇趣味推理については、真逆なんです。
怪奇現象研究家のエミー・フォーブスさんは、犯人を悪魔だという一方で、研究家というだけあって、その発言は他の誰よりもまとも。最終的なこの物語のトリックと比較しても、もしかしたらフォーブスさんの意見の方が論理的じゃない買って思ってしまうくらいでした。
本格って良いですね~。
さて、ネタと犯人については、もうどうでも良いって感じです。ごめんなさいですが(笑)空間的には閉ざされてはいないけれども、魔王の足跡のために、密室殺人となっているので、まあ、ミステリである以上怪奇的なものが殺人を起こしたわけではないという前提に立ってしまえば、ミステリのみの視点に立ったトリックの質がそこまで高くないことはしかたないですね。
ただし、怪奇的な現場が、ミステリ全体を盛り上げるために使われるだけではなく、フォーブスさんのようなまっとうな怪奇研究家という存在があるために裏打ちされ、あたかも真実であるようなインパクトを与えるのがこの作品のすばらしさです。蓋を開けてしまえば、たいしたことないんだよなぁ、なんて、魔王の足跡についてスミス警部が実証している姿を想像するだけで、笑えてきますしね。
楽しめたので、ハードカバーで刊行された他の古典本格でも読みたいです。