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電気屋の書斎と消えたコマドリの卵の秘密

『緑衣の女』(アーナルデュル・インドリダソン)

2013/09/08
海外ミステリ 2
アーナルデュル・インドリダソン
緑衣の女

「それと比較すると、この人骨が埋められた時期などほんの一瞬前のことにすぎない」
『緑衣の女』(アーナルデュル・インドリダソン) pp.31

住宅建設地で発見された、人間の肋骨の一部。事件にしろ、事故にしろ、どう見ても最近埋められたものではない。現場近くにはかつてサマーハウスがあり、付近にはイギリス軍やアメリカ軍のバラックもあったらしい。住民の証言の端々に現れる緑の服の女。数十年のあいだ封印されていた哀しい事件が、捜査官エーレンデュルの手で明らかになる。CWAゴールドダガー賞/ガラスの鍵賞同時受賞。究極の北欧ミステリ。

評価:★★★★☆

CWAゴールドダガー賞、ガラスの鍵賞
『このミステリーがすごい! 2015年版』  10位


評判が良かった『湿地』でしたが、個人的には地味な警察小説という印象が強かったため、『緑衣の女』はすぐに手は出しませんでした。
でしたが、どうやら、本作も巷の評判はなかなか良かったので、普通に読んでしまいました。

世界的な評価といったところでは、『湿地』は"ガラスの鍵賞"のみを、『緑衣の女』は"ガラスの鍵賞"と"CWAゴールドダガー賞"を受賞しています。
『湿地』のあらすじにあった"ガラスの鍵賞"2年連続受賞は、『湿地』と『緑衣の女』のことのようです。

【『湿地』の感想】
http://delerium.blog40.fc2.com/blog-entry-356.html

さて、本作、冒頭で住宅建設地から人骨が発見されます。

まず、最初に感じたこと。
小説としてどうだったのかは置いておくとして、わざわざ掘り起こして、事件として捜査する必要なかったんじゃ……的なことを感じたのですが、どうなんでしょうか?

インゴルヴル・アルナンソン(9世紀にアイスランドに移住してきた人たち)とか言われたり、インゴルヴル・アルナンソンは全否定されていますが、そうはいっても、半世紀以上前の骨であることは当たっているようで、同僚のシグルデュル=オ-リなんて、すでに死んだおじいちゃんの山になったような遺品に嫌気がさしているし。

さらに、プロフェッショナルな考古学者スカルプヘディンがさっさと掘り起こせばいいんだよ!

ね。


そんな前提を無視すると、本シリーズの魅力は、1番はアイスランドを事件に絡めていること、2番目は主人公エーレンデュルの家族が他の小説とは比べものにならないほど破滅的な状況にあることです。

1番目のアイスランドについて。
『湿地』では全国民の遺伝子データベースがあることに驚かされましたが、『緑衣の女』は驚かされるというよりは第二次世界大戦中のアイスランドの位置づけを物語の背景にしていたり(=半世紀以上前の人骨が出てくるのしょうがない)、ハレー彗星が来たときのガスタンク乱交事件なんかを取り上げていたりします。
≪シェットランド四重奏≫はシェットランド諸島は風光明媚だなと感じましたが、本シリーズを読むと土地の美しさとかではなくって、アイスランドの歴史だったり社会性を垣間見られるんですよね。

そして、壮絶なのは、主人公エーレンデュルと娘のエヴァ=リンド、それに元奥さんのハルドーラも出てきます。
エヴァ=リンドは、『湿地』でも凄かったけど、ヤク中で、親子の会話は成立せず、本作では倒れているのをエーレンデュルが発見し、ずっと昏睡状態のままです。
エーレンデュルと家族の会話は常に罵詈雑言だし、メインストーリーの第二次世界大戦頃の部分も悪人のグリムル氏が家庭内暴力を奮いまくりだし、『緑衣の女』には普通の人たちは出てきません。

本シリーズの魅力は、警察小説(=ミステリ)ではないわけですが、読んだときにぐっと心に伝わってくるものがあるんですよね。


Comments 2

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がる

読んでて、「いろいろ引っ張るなー」って思いました。

読み終わってみると、内容の濃さもそうですが、全体のバランスの良さが印象に残りましたね。
『湿地』の時も、長すぎず短すぎずのボリュームに感心したものですが、
そのページ数の有効利用は本作品でも発揮されてたように感じました。

アイスランドの、社会と家族の問題が色んな角度から描かれてるのが興味深かったです。
エーレンデュル家がスタンダードだとは思えないけど、刑事の家庭があんな感じって違和感あるわあ。

2013/09/08 (Sun) 21:10

Cozy

引っ張りすぎでしたね。

考古学者ののんびりとした発掘のスピードが、結局は物語全体のスピード感を支配してしまっていて、引っ張ってる感を感じまくりでした。
一方で、結局は、関係者の告白で、事件が解明されることもあって、人骨自体はあまり捜査とは関係ない感じではありましたが。
「もう、ここまで分かってるんだから、終わらせてもいいじゃない」と何度か思ってしまいました。

ミステリ的な要素は骨格で、アイスランドの社会問題だとか、エーレンデュル家の家族問題がメインで、そっちは満喫できましたね。

2013/09/09 (Mon) 06:15
Cozy
Admin: Cozy
ついに40代になりました。都内在住のサラリーマンで電気関係の仕事をしています。休日に読書をしたいですが,家族と過ごす時間が増えて,読書量がかなり減っています。

海外ミステリが好きです。
読むペースに波がありますが、よろしくお願いします。
海外ミステリ