『緑衣の女』(アーナルデュル・インドリダソン)
「それと比較すると、この人骨が埋められた時期などほんの一瞬前のことにすぎない」 『緑衣の女』(アーナルデュル・インドリダソン) pp.31 |
住宅建設地で発見された、人間の肋骨の一部。事件にしろ、事故にしろ、どう見ても最近埋められたものではない。現場近くにはかつてサマーハウスがあり、付近にはイギリス軍やアメリカ軍のバラックもあったらしい。住民の証言の端々に現れる緑の服の女。数十年のあいだ封印されていた哀しい事件が、捜査官エーレンデュルの手で明らかになる。CWAゴールドダガー賞/ガラスの鍵賞同時受賞。究極の北欧ミステリ。 |
評価:★★★★☆ |
CWAゴールドダガー賞、ガラスの鍵賞 『このミステリーがすごい! 2015年版』 10位 |
でしたが、どうやら、本作も巷の評判はなかなか良かったので、普通に読んでしまいました。
世界的な評価といったところでは、『湿地』は"ガラスの鍵賞"のみを、『緑衣の女』は"ガラスの鍵賞"と"CWAゴールドダガー賞"を受賞しています。
『湿地』のあらすじにあった"ガラスの鍵賞"2年連続受賞は、『湿地』と『緑衣の女』のことのようです。
【『湿地』の感想】
http://delerium.blog40.fc2.com/blog-entry-356.html
さて、本作、冒頭で住宅建設地から人骨が発見されます。
まず、最初に感じたこと。
小説としてどうだったのかは置いておくとして、わざわざ掘り起こして、事件として捜査する必要なかったんじゃ……的なことを感じたのですが、どうなんでしょうか?
インゴルヴル・アルナンソン(9世紀にアイスランドに移住してきた人たち)とか言われたり、インゴルヴル・アルナンソンは全否定されていますが、そうはいっても、半世紀以上前の骨であることは当たっているようで、同僚のシグルデュル=オ-リなんて、すでに死んだおじいちゃんの山になったような遺品に嫌気がさしているし。
さらに、プロフェッショナルな考古学者スカルプヘディンがさっさと掘り起こせばいいんだよ!
ね。
そんな前提を無視すると、本シリーズの魅力は、1番はアイスランドを事件に絡めていること、2番目は主人公エーレンデュルの家族が他の小説とは比べものにならないほど破滅的な状況にあることです。
1番目のアイスランドについて。
『湿地』では全国民の遺伝子データベースがあることに驚かされましたが、『緑衣の女』は驚かされるというよりは第二次世界大戦中のアイスランドの位置づけを物語の背景にしていたり(=半世紀以上前の人骨が出てくるのしょうがない)、ハレー彗星が来たときのガスタンク乱交事件なんかを取り上げていたりします。
≪シェットランド四重奏≫はシェットランド諸島は風光明媚だなと感じましたが、本シリーズを読むと土地の美しさとかではなくって、アイスランドの歴史だったり社会性を垣間見られるんですよね。
そして、壮絶なのは、主人公エーレンデュルと娘のエヴァ=リンド、それに元奥さんのハルドーラも出てきます。
エヴァ=リンドは、『湿地』でも凄かったけど、ヤク中で、親子の会話は成立せず、本作では倒れているのをエーレンデュルが発見し、ずっと昏睡状態のままです。
エーレンデュルと家族の会話は常に罵詈雑言だし、メインストーリーの第二次世界大戦頃の部分も悪人のグリムル氏が家庭内暴力を奮いまくりだし、『緑衣の女』には普通の人たちは出てきません。
本シリーズの魅力は、警察小説(=ミステリ)ではないわけですが、読んだときにぐっと心に伝わってくるものがあるんですよね。